一人になりたくて…(卒婚という選択)

60代女性の一人暮らし。本が好き。

お気に入りの場所

お題「#この1年の変化

  昨年二月、私たち夫婦はこのテーブルで向かい合ってそれぞれの「退職届」を記入していた。あれから一年、リビングのテーブルを独り占めしてわたしは暮らしている。

 このテーブルは数年前にここへ転居した時に購入して夫が組み立ててくれた。

しっかりとした木のテーブルで夫は「ママが買った物の中で一番良い」とほめてくれた。三人の子供たちがくる時はスライドして拡大する。

 三月、私たちは市役所へ行き、夫は転居通知を提出して、予約していた日本料理の店へランチを食べに行った。退職と転居、二人の再出発のお祝いだった。店へと向かう途中で電話があった。予約の確認だった。なんと、数分遅れただけだったのに仲居さんが外で待っていた。予約客はキャンセルなどがあり、私たちだけとのこと。新型コロナウイルスの感染拡大が始まっていた。

 四月、予定通り夫は静岡へ引っ越していった。待ち望んでいた一人暮らしが始まった。同時に東京では緊急事態宣言が発令された。

 一人でいるのが苦にならない。むしろ一人でいたい。散歩も外出も一人で黙々とする。用事がなければ部屋でずっと本を読んだりゲームをしたりして過ごす。人と会う必要があってお店に入っても声が小さいし通らないからなるべく静かな店を選ぶ。テーブルの間隔があって他人の声と動向が離れていると気が楽だ。そういうじぶんにとって、この一年はそれが粛々と実現した年だった。

 新型コロナウイルスの感染拡大と別居が重なった。もちろん、娘と計画していた旅行がダメになったり、習い事の教室に行けなかったり、友達と会えなかったりはした。皆がそうだった。ニュースを見聞きしていて胸の痛むことが多かった。ただ、じぶんの暮らしはある意味「自分らしさ」を取り戻したような静かな毎日だった。

 自分らしさ、わたしは一人になって残りの人生、何がしたいんだっけ?とぼやぼやと考えた。まだ考えている。昨年一年はそういう自問の年だった。もう一度詩と向き合ってもみた。まとめたりした。そのあとぽかんとしていた。ブログを引っ越してもっと心の奥に梯子を下ろしてみようと試みた。まだできていない。

 でもわたしにはお気に入りのこのテーブルがある。こうしてパソコンもするし読書もするし一人で食事をする。自由に外を歩きまわって帰ってくると真っ直ぐにここにくる。「ただいま」と心の内で呟いている。